夏至 − 第三景・間奏3・第四景
第三景
マチが携帯をみつめながら立っている。ふと海をみる。 |
|
マチ |
また違う。ウミノイロ。 |
マチ、携帯でヒダリに電話する。 |
|
マチ |
もしもしヒダリ…あ、マチ。…どこにいる?…外?そうか。そうだね。…え。うんん。カワサキがね、留萌に行こうって。……バスで。…パス。やっぱり。………わかんない。……あ、いい私聞いてみる。……え?私。うん。決めたよ。……うん。後で。…なんでも。じゃ。 |
マチは携帯を切り、今度はカワサキにかけようとする。そこにタカノが現れる。 |
|
タカノ |
マチ |
マチ |
タカノ |
タカノ |
ヒダリは? |
マチ |
みつかんなかった。外にいるって。 |
タカノ |
え? |
マチ |
今電話したの。 |
タカノ |
そか |
マチ |
ヒダリね、今日は一日外にいたいって |
タカノ |
へ? |
マチ |
どういうことかな? |
タカノ |
そりゃ、一日外にいたいってことだよ。 |
マチ |
そだね。 |
タカノ |
マチ |
マチ |
(タカノが何か言おうとするのをさえぎる語りで)捕まったらどうなるかな? |
タカノ |
俺ら? |
マチ |
私とカワサキ |
タカノ |
取り調べ。調書に署名捺印。 |
マチ |
捺印 |
タカノ |
はんこ。 |
マチ |
はんこもってないよ。今 |
タカノ |
うん。拇印。指。 |
マチ |
指紋? |
タカノ |
そ。前科者。で送検 |
マチ |
? |
タカノ |
検察に書類送ること。書類か?あ! |
マチ |
何? |
タカノ |
初犯とかなら送検しないこともある。 |
マチ |
そうなんだ。 |
タカノ |
それから検察が事件調べて、起訴して裁判。刑の確定。 |
マチ |
裁判? |
タカノ |
そうだよ。多分。 |
マチ |
すぐ刑務所じゃなくて? |
タカノ |
うん。裁判しなきゃ刑罰決まんないはず。 |
マチ |
自供しても?全部認めても |
タカノ |
自供しても。 |
マチ |
なんか大変だね。 |
タカノ |
そりゃ大変だよ。あ不起訴もある。 |
マチ |
ふきそ? |
タカノ |
うん。検察いっても起訴されない。 |
マチ |
なんで? |
タカノ |
え、初犯とか軽かったら、かな?よくわかんないけど。 |
マチ |
検察と警察って違うの? |
タカノ |
違う。 |
マチ |
何が? |
タカノ |
何がだろ?何にも知らないね。おれら。 |
マチ |
そうだね。 |
タカノ |
教えてくれよな。 |
マチ |
え? |
タカノ |
車盗んだら、どんなことになるのか、さ。学校で。 |
マチ |
ありがとうね。タカノ |
タカノ |
何 |
マチ |
電話して、きてくれたこと。すごいうれしかった。 |
タカノ |
うん。ってか覚えてた?俺行ったときのこと |
マチ |
‥ほんとうは覚えてない。 |
タカノ |
ありがとうありがとうってうるさいくらい繰り返してたよマチ。 |
マチ |
そうなんだ。馬鹿だね。でもありがとね。 |
タカノ |
うん。 |
マチ |
きっとすっごいうれしかったよ。 |
タカノ |
覚えてないけど? |
マチ |
覚えてなくても。 |
タカノ |
そりゃ良かった。 |
マチ |
うん、きっと。タカノ。 |
タカノ |
うん? |
マチ |
ぐうちょきぱー |
タカノ |
え? |
マチ |
ぐう・ちょき・ぱーって繰り返そ。 |
タカノ |
じゃんけん?(マチ肯定する)…ダメだよ。 |
マチ |
あのね、二人がね。たまたま今度のじゃんけんは、ぐーちょきぱーの順番で出そうって考えたの。 |
タカノ |
マチ |
マチ |
ぐう・ちょき・ぱーって出そうって二人ともね、別々に考えたの。そんなことだってあるかもしれないよね。 |
タカノ |
そりゃ、あるかもしれないけど。 |
マチ |
ね、あるかもしれないでしょ。 |
タカノ |
駄目、今聞いたから。 |
マチ |
駄目? |
タカノ |
それじゃ偶然になんないでしょ。 |
マチ、突然、タカノに背を向けて歩き出す。しばらく歩いて、急に振り返る。 |
|
マチ |
タカノ |
タカノ |
何? |
マチ |
しよ。 |
タカノ |
‥ |
マチ |
じゃんけんしよ。 |
タカノ |
いいよ。 |
二人はじゃんけんをはじめる。ぐうちょきぱーのじゅんで。タカノはどんどん無表情になっていく。マチはどんどん真剣になっていく。あいこが9回続いたところで、遠くからヒダリの声。 |
|
ヒダリ |
タカノ!マチ! |
その声にタカノ、振り返る。 |
|
マチ |
タカノ、お願い。 |
タカノ、再びマチを見る。 |
|
タカノ |
もうまもらない。 |
マチ |
え? |
タカノ |
次は、ぐうの番だけど。そんなこと忘れる。 |
マチ |
ぐう出さないの? |
タカノ |
忘れる。ぐうかもしれない。マチ、本気でこい。 |
マチ |
わたしずっと本気だよ。 |
タカノ |
うん。 |
マチ・タカノ |
じゃんけん。ほい。 |
二人ともぱーだった。やや間。ヒダリが登場する。と、マチ去る。 |
|
ヒダリ |
マチ |
タカノ |
……カワサキに聞いた? |
ヒダリ |
カワサキ? |
タカノ |
留萌行こうって。 |
ヒダリ |
ああ、マチから聞いた。行かないよ。 |
タカノ |
なんで? |
ヒダリ |
一日外にいるって決めたから。 |
タカノ |
そう。 |
タカノ去ろうとする。 |
|
ヒダリ |
どこ行くの? |
タカノ |
別に。 |
ヒダリ |
体べたべたしない? |
タカノ |
そう? |
ヒダリ |
風呂はいりてえ。 |
タカノ |
留萌で入れば。 |
ヒダリ |
そうね。いやいや。今日は我慢する。でも、長いや。 |
タカノ |
一日外にいるの? |
ヒダリ |
うん。なえそう。 |
タカノ |
あきらめたら。 |
ヒダリ |
それも考える。 |
タカノ |
意味あんの? |
ヒダリ |
お風呂。テレビ。 |
タカノ |
は? |
ヒダリ |
CD、マンガ、ショッピングセンター |
タカノ |
だから何? |
ヒダリ |
ないもの |
タカノ |
ないものって |
ヒダリ |
ここに。海に。 |
タカノ |
ゲーセン |
ヒダリ |
なるほど。 |
タカノ |
ニンテンドーDS |
ヒダリ |
かぶってるっしょ。ベンチ、噴水 |
タカノ |
雑貨屋、ギター |
ヒダリ |
ベッド、冷蔵庫。ガスコンロ |
タカノ |
それもかぶりでしょ。 |
ヒダリ |
せっかくさ、こんなことになったから。ルールっていうのかな。 |
タカノ |
ルール? |
ヒダリ |
うん、しばりっていうか。なんか楽勝すぎるじゃない。これじゃ。 |
タカノ |
楽勝ね。 |
ヒダリ |
私アウトドア嫌いだしさ、釣りとかキャンプとか。炊事遠足とかもほんといやだった。 |
タカノ |
俺もいやだった。 |
ヒダリ |
だから、今日一日は、太陽が出てから、沈むまで、ずっと外にいることにする。そういうルール。 |
タカノ |
15時間半?なるほど、ね。 知ってた?六万台だって。 |
ヒダリ |
? |
タカノ |
一年で盗まれる車の数 |
ヒダリ |
ふうん。 |
タカノ |
マチから電話あった後、ネットで調べたんだ。北海道だけで二千台 |
ヒダリ |
多いね。 |
タカノ |
一日6台だよ。ニュースでも新聞でも全然流さないじゃん。酔っぱらって車盗んで。多分誰も見てなくて。それから、登別まで行って車捨てて、白老で車検の切れた車にのって、石狩まで来て。指紋拭いて、ナンバーも外して。留萌の海にでも捨てたら、絶対わかんない。 |
ヒダリ |
うん。うん。 |
タカノ |
あるよ。 |
ヒダリ |
私も。つかまったことある? |
タカノ |
ない。 |
ヒダリ |
私はある。 |
タカノ |
そう。 |
ヒダリ |
狭い部屋つれてかれて、いろいろ言われて。全部わすれちゃったけど。献血カードもっててさ。名前ばれちゃった。 |
タカノ |
あほだ。 |
ヒダリ |
うん。あほ。名前ばれてっからさ、電話番号は嘘ついたけど。一週間くらい親とか先生とか気になって。 |
タカノ |
連絡なかったんだ? |
ヒダリ |
うん。なかった。きっと。 |
タカノ |
じゃ、ラッキーじゃん。 |
ヒダリ |
けどびくびくしてたよ。いやだったな。あの感じ。びくびくびくびく。 |
タカノ |
今は? |
ヒダリ |
そうなのさ。びくびくしてないんだ。今。ちっとも。 |
タカノ |
俺もさ。 |
ヒダリ |
フヌケてるね。 |
タカノ |
おかしいよね。俺ら。 |
ヒダリ |
同感。 |
タカノ |
じゃ、俺行くわ。 |
ヒダリ |
ね、どこ行くの。 |
タカノ |
マチんとこ。 |
タカノ去る |
|
ヒダリ |
長いな。 |
暗転 |
間奏3
(以下の会話は暗い中、科白のみ) |
|
カワサキ |
タカノきてくれるって。 |
マチ |
ほんと。 |
カワサキ |
少し眠るか? |
マチ |
酒ぬけるかな。 |
カワサキ |
だといいけど。 |
やや間 |
|
マチ |
ね、タカノが運転すんの? |
カワサキ |
うん。 |
マチ |
タカノにちゃんと伝えた? |
カワサキ |
うん。 |
マチ |
カワサキ |
カワサキ |
何 |
マチ |
ヒダリにも電話して。 |
カワサキ |
え? |
マチ |
ヒダリも呼んで。 |
カワサキ |
なんで |
マチ |
勝負。 |
カワサキ |
ばーか。 |
第四景
ヒダリが座り込んでいる。 |
|
ヒダリ |
遠いな。 |
カワサキやってくる。ヒダリ、カワサキの気配に気付く。が、前を向いたまま。 |
|
ヒダリ |
いかないよ。留萌 |
カワサキ |
いればいいよ。 |
カワサキ歩き回る。 |
|
カワサキ |
っていうか。もういいよ。ここからはマチと二人で動く。 |
ヒダリ |
呼び出したのカワサキだよ。 |
カワサキ |
感謝してる。酔っ払い二人連れて、一緒になって逃げてくれて。 |
ヒダリ |
で? |
カワサキ |
帰りなよ。札幌。夜まで外で過ごしてからさ。はい。(と先ほど拾ったお金をヒダリにわたす) |
ヒダリ |
え? |
カワサキ |
二万三千円 |
ヒダリ |
何? |
カワサキ |
助手席の、ポーチの中の、金 |
ヒダリ |
とったんだ。 |
カワサキ |
見つけたのはタカノだけどね。 |
ヒダリ |
悪人だなあ。 |
カワサキ |
車盗んだ時点でね。 |
ヒダリ |
んで、なんで私にくれるわけ? |
カワサキ |
お礼? |
ヒダリ |
すげえ失礼。 |
カワサキ |
かもね。 |
ヒダリ金をカワサキに戻す。 |
|
ヒダリ |
カワサキとマチで使いなよ。ずるいよ。わたしとタカノに使わせるなんて。 |
カワサキ |
そうね。(お金受け取る。) |
ヒダリ |
留萌でどうすんの? |
カワサキ |
まず魚食べる。このお金使って。 |
ヒダリ |
いよいよ悪だ。 |
ヒダリとカワサキ海をみつめる。 |
|
ヒダリ |
やっと昼だね。 |
カワサキ |
なんだか。 |
ヒダリ |
なんだか。 |
カワサキ |
世界樹(せかいじゅ)って知ってる? |
ヒダリ |
知らない。 |
カワサキ |
世界のどこかに広い広い草原があってさ、そこに一本だけ大きな木が立ってんの。ずっと昔から。ずっと未来まで。一本だけの大きな木 |
ヒダリ |
神秘的? |
カワサキ |
んんん。神秘の象徴。 |
ヒダリ |
象徴? |
カワサキ |
平凡な木なんだって。ただ大きくて一本だけ立ってるんだって。その木が立ってることは神秘でもなんでもなくって、この世界があること、そのこと自体が神秘なんだって。 |
ヒダリ |
うん?よくわかんない。もっぺん。 |
カワサキ |
だからさ、世界が今こうして、こんな風にあること、それこそが神秘であって、そのほかに神秘なんかないってこと。 |
ヒダリ |
カッコイーね。 |
カワサキ |
世界樹はその神秘の象徴なわけ。だから世界樹は、じつはどこにでも生えている。そういう話。 |
ヒダリ |
神秘か。 |
カワサキ |
おかしいでしょ。神秘でもなんでもないよね。あたしら。 |
カワサキすこし歩く。 |
|
カワサキ |
くすんだ色だね。 |
ヒダリ |
海? |
カワサキ |
この海には木は生えないね。木ないね。ここには。 |
ヒダリ |
わたしたちには。 |
カワサキ |
木は生えない。 |
ヒダリ |
(カワサキをみつめている)ねえ。 |
カワサキ |
何 |
ヒダリ |
どうして車なんか盗んだの? |
カワサキ |
酔ってて覚えてない。 |
ヒダリ |
それは、嘘だ。 |
カワサキ |
… |
ヒダリ |
あれ? |
ヒダリ耳を澄ます。 |
|
ヒダリ |
聞こえる? |
カワサキ |
何が? |
ヒダリ |
あれ。 |
遠くでパトカーのサイレンの音 |
|
カワサキ |
パトカー |
ヒダリ |
まさか、ね。 |
と携帯がなる。びっくりする二人、カワサキ表示を見る。 |
|
カワサキ |
マチだ。なんだ。 |
ヒダリ |
… |
カワサキ |
はい。カワサキ。…うん、驚かせないでよ。…(ヒダリに)やっぱ、マチだ。……うん、ヒダリと一緒。……だから驚いたのさ。パトカーのサイレン聞こえたって思ったら携帯とつぜん。…え。……え、なんで。……なんで。…考えてって何を……意味ないじゃんここまでした。…………………………………マチ。 |
ヒダリ |
どうしたの? |
マチが携帯を持ってでてくる。 |
|
マチ |
きっとつかまんないじゃないこのままじゃ。私たち。また何となく飲んだり、集まったり、おしゃべりしたりして。そんなのがずっと続いてくじゃん。 |
ヒダリ |
マチ |
マチ |
わかったようなわからないような、許されてるような、待ってるようなそんなのもうたくさんだって思ったの。だって、悪いことしたんだから、悪いことしたようにならなきゃ。そう思ったの。 ね、カワサキ。 いこう。 |
カワサキ |
… |
マチ |
いこう。 |
カワサキ |
うん。私もそう思った。 |
マチ |
ヒダリ |
ヒダリ |
うん。 |
マチ |
考えたよ。 |
ヒダリ |
マチがパトカー呼んだのね。 |
マチ |
そう。 |
ヒダリ |
タカノは? |
マチ |
探しに来たけど、私隠れちゃった。 |
ヒダリ |
悪人だ。 |
マチ |
ヒダリ? |
ヒダリ |
うん? |
マチ |
わたしヒダリ苦手ださ。 |
ヒダリ |
そっか。 |
マチ |
じゃ。またどこかで? |
ヒダリ |
…バイバイ |
マチ |
カワサキ、バス停のとこね。 |
マチ去る。カワサキ、しばらくマチをみつめている、が |
|
カワサキ |
じゃ、あたしもいってくる。 |
ヒダリ |
とんだ尻切れトンボだ。 |
カワサキ |
金魚のふんよかましだわね。 |
ヒダリ |
確かに。 |
カワサキ去ろうとする。 |
|
ヒダリ |
あ、カワサキ |
カワサキ |
え |
ヒダリ |
やっぱ山分けだ。一万円。 |
カワサキ |
抜け目ないね。 |
ヒダリ |
へへ。 |
カワサキ一万円をヒダリに渡す。 |
|
カワサキ |
せっかくだからさ、一日外にいてよね。 |
カワサキ去る。ヒダリぼんやり海をみつめている。手元の金をみる。 |
|
ヒダリ |
日、高いな。船のれるかな。 |
タカノが登場する。 |
|
タカノ |
パトカー来た。 |
ヒダリ |
うん。逃げるよ。本気で。 |
fin